大阪を中心に、さまざまなジャンルで活躍する女性を応援!
見る人も楽しめる情報満載のホームページです。なにかヒントになること見つかるかも♪

ひと夏の恋

暑い。吸い込む息で気管が火傷しそうだ。
息苦しい。

ふと入った綺麗な居酒屋さん。

なんだってよかった。
体と気を鎮めることができるのであれば。

カウンターに座って
「お酒、冷酒は何がありますか?
書いてあるのが見えなくて…。」

近くにいた若い女性店員に対して、私は張り出されているメニューを指さした。

「申し訳ございません。
本日の地酒は、八海山、新潟のお酒。ひと夏の恋、宮城のお酒。最後は雑賀衆、和歌山のお酒でございます。お好みはどのような…。」

私は彼女の説明を遮るように、
「宮城のお酒でお願いします。」

とても恥ずかしくて銘柄では注文できず、つい宮城のお酒と言ってしまった自分が、おかしく思えて笑ってしまいそうになった。

しかし、それもほんの一瞬。
ここ数日、私の中で鬱々としている気持ちは、私自身をかなり追い込んでいた。
「疲れたぁ。」
小さくつぶやきながら大きなため息が出た。

つらいのだ。悲しいのだ。
とても切なくて、力を抜いた瞬間、胸が締め付けられそうになる。

若い男性店員が運んできてくれた、酒器とグラス。
そして一升瓶。
見るからによく冷えているのがわかった。

一合以上は取り分けることができるその酒器に、並々とお酒が注がれて、少し溢れた。

それを見ていた若い女性店員が、適当に頼んだ肴に気を使いながら慌てて拭いてくれた。

「大したことはないよ。それくらい。」
そう言いかけてやめた。

冷えたグラスにお酒を注いだ。

そして、一口呑んでみた。

甘い。美味しい。冷たい。
トクトクと音が聞こてくるような感触で、喉元を伝っていった。

そして少し遅れて、胸が灼けた。

熱い!

そう思って下を向いたら、涙が落ちた。

私の中で張りつめていたものが、パチンと切れた瞬間だった。
自分の思い通りに全てがあって欲しいと思っているわけではない。

ほんの僅かでいいから、自分を緩めてしまえる時間が欲しかったのだ。

ただ、それだけだ。

スッキリとしたわけではないが、時にはこんな呑み方もいいかもしれない。

こんな時は、綺麗で品がよく、少しくらい澄ました居酒屋がいい。

みっともない呑み方をせずに済む。

私は完全に泣いてしまう前に、お酒を呑み干して店を出た。
店の外は一気に生温かい空気に変わったが、それがなぜか私を安心させた。

私に似つかわしくないそのお酒は、少しだけ私の機嫌をとってくれた。






作・
皐映月 紅歌
(さえつき あか)