三年前。十月。

恋う(こう)人と手を繋いで、飛行機を見ていた。

この激しい鼓動が指先を通して、彼に伝わってしまわないか、そればかり気にしていた。

その日は天気も良く、まだわずかに夏が残っていて暑かった。

時折強い光が顔を射した。

いつもと違う一齣は、二人を包む空気から違っていた。心地良すぎるのだ。

風が頬を擽ぐる。

彼の揺れる髪がしぐさが表情が匂いが、そして何より私の名を呼ぶその声が、いちいち私の琴線に触れるのだ。

出会った事を後悔している。
好きになった事を後悔している。
何度も求め合った事を後悔している。

けして報われない事も知っている。
いつも心には準備をしている。

私が今死んでしまっても。
彼の人生から私一人が欠けたとしても、何一つ変わらない事も分かっている。

それでも、私は彼に大切にされている。

手を伸ばし、指先でその唇に触れたい。
喉に触れたい。声に触れたい。
 
肌を重ねている時より、目映い。

彼が興奮気味に見ている飛行機。彼と過ごせる時間を愛おしく、甘く切なく感じていた。

ずっとこんな日が続いて欲しいと願う。

彼を愛することで、私の人生は彩づく。

出会った日を何度も思い出す。

あの日から何も変わらず。

私はあなたを愛しています。

【作品はフィクションです】


イラスト あん

作・
皐映月 紅歌
(さえつき あか)